藤原カムイ インタビュー

インタビュー挿絵

まず『愛と誠』原画デジタル修復の作業を引き受けられたきっかけについて、教えて頂けませんか?

藤原カムイ先生(以下藤原):始まりは以前、自分のマンガの担当をしていた編集者さんからの依頼だったかな。以前にウルトラジャンプで『福神町綺譚』(※1)という作品を連載していて、彼からの紹介がきっかけでした。

あの作品も、読者参加型で話が進むという、大変ユニークな企画のマンガでしたね。ただ先生にお声が掛かった時点で、すでに原画のデジタル修復作業はいくつか手掛けてらっしゃったのですか?

藤原:ええ。以前、編集さんにそんな話をしたことを覚えてらしたんで、彼が声をかけて下さったんですね。
 まあデジタル修復作業自体、最初は自分だけの趣味から始まったんですけど…自分の作品を印刷物からスキャンして、それをデジタルで取り込んで修復して、最終的にはミニコミ誌で出す、という作業は以前からやってましたからね。
 人の作品のデジタル修復をお仕事として引き受けたのは、みなもと太郎先生(※2)がある展覧会を主催したとき、依頼されてあすなひろし先生(※3)のカラー作品を修復したのが最初でした。
 あのときも元原画は存在しない…と言われたものを「だったら僕が修復しますよ」という話になった。たまたま自分が趣味で、あすな先生のカラー印刷物のキリヌキを所蔵してたので、そこからデジタルで復元できたんです。15年ほど前のことだったかな…既にあすな先生はご存命ではなかったと思いますが。
 あとは『ワイルド7』(※4)のピンナップ修復とか…あれも、自分が雑誌のキリヌキを個人所蔵していたから可能になったんです。だから、話があったときに、自分が作ってたものを差し出して「ハイ」と渡して(笑)。

みなもと先生やあすな先生、望月先生とか、昭和漫画史に残るそうそうたる皆さんの作品のデジタル修復を手がけられたんですね。さらに藤原カムイ先生はデジタル関連というと、マンガ以外にもゲーム分野で活躍されました。

藤原:例の国民的RPGのデザインとか…そういえば、そちら関連で画集を出版したときにも、けっこうラフスケッチなんか原画が紛失してて…最近改めて見つかったり、デジタルで復刻し直したものもありましたね。

それでは今回、デジタル作業に当たっての苦労は、いかがでした? それに関して、ながやす先生からのリクエストとか、復刻した原画ご覧になった反応などは?

藤原:苦労というか、元々好きで始めたということもあって、作業はたいへん楽しかったですよ。印刷物から起こすとはいえ、作家さんの絵を修復するなんて、滅多にできることではないですからね。作業に当たって先生からのリクエストは特になかったですし、プリントアウトしたものも直接見て頂いたのですが、「すごい」って感心して下さいましたね。

藤原先生ご自身からの感想として、今回の『愛と誠』原画を修復するにあたって感じられたことは如何でしょう?

藤原:正直、この『愛と誠』を…扉絵カラーは15点、それにモノクロ原画も20点以上あるんですがそれだけじゃなく、ながやす先生は『愛と誠』のマンガ原稿すべてをたった一人でお描きになったこと自体がスゴい! と感じました。
 カラー作品に関して言えば、ことに…自分にはないものがスゴい! と思ったんですよ。油絵っぽい感じ、こういう筆使いのタッチを生かした絵画的技法、というんですかね。これはなかなか、一発描きで決めるのは難しいんですよ。自分だとまず主線を引いてからそこに色を重ねていくけれど、ここではいきなり、ぶっつけで描いているでしょう…線画と色を別に塗って合成するんじゃなく、一枚絵として塗っている。だから、人物の「際」のあたりの緊張感がハンパないんですね。

ちなみに、ながやす巧先生の作品は、かなり以前からお読みになっていたんですか?

藤原:実は昔、ヒロインの少女が『白馬のルンナ』っていう歌を唄った映画がありましてね。それをながやす巧先生がマンガにしたんですよ(※5)。それが僕の(ながやす先生に対する)ファースト・インパクトでしたね。カラーページはボリュームもスゴくて!

今回、デジタル修復をおやりになったご自身の感想とか、今後携わるとしたらどのようなことをやってみたい…といったご感想は?

藤原:要望があれば、ぜひまたやってみたいですね。実際、自分でも連載を持っていた20年ほど前からphotoshopを使っていたし、ペンタブを使って絵を描いていた…デジタル環境とは昔から馴染みが深かったですから。
 今はグラフィックツールにしても凄く進化して、こういうデジタル修復作業なんかは「誰にでもできる」環境になりましたからね。

誰にでも…は、できないでしょう!

藤原:それだけ便利になったのは本当ですよ(笑)。

いえいえ、今回の画像修復にしても、要は「無くなってしまった背景に何が隠れていたのか?」を復活させるセンスとノウハウがモノをいいますから。その意味では藤原カムイ先生は、それを後進に教える伝道師の任を担って下さったのかもしれませんね。長時間、お付き合いありがとうございました。

藤原カムイ

1959年9月23日生まれ。1979年第18回手塚賞佳作でデビュー。商業誌デビューは1981年『バベルの楽園』(藤原神居名義)。繊細な画風が特徴で、オリジナリティのある独自の世界観を描いた短編作品を多く発表する。代表作『雷火』『ドラゴンクエスト列伝 ロトの紋章』『精霊の守り人』ほか。

プロフィール挿絵

藤原カムイ 修復動画はこちら!

※1 『福神町綺譚』

『ウルトラジャンプ』(集英社)にて1998年第17号 ~ 2000年10月号に掲載。
『ウルトラジャンプ』誌上での連載と並行してネット上で「町民」を募集、登録した町民と作者とのコミュニケーションによって内容が決まっていくという「双方向漫画(インタラクティブコミック)」。

※2 みなもと太郎(みなもとたろう)

1947年3月2日-2021年8月7日
代表作『ホモホモ7』『風雲児たち』ほか。マンガ評論分野でも活躍。

※3 あすなひろし

1941年1月20日-2001年3月22日
代表作『からじしぼたん』『青い空を、白い雲がかけてった』ほか。

※4 『ワイルド7』

著者は望月三起也(もちづきみきや)1938年12月16日-2016年4月3日
代表作『ワイルド7』は『少年キング』(少年画報社)にて1969年9月~1979年7月に掲載。全48巻。

※5『白馬のルンナ』

映画の正式タイトルは『その人は昔』(1967年:監督・松山善三)。
『白馬のルンナ』はヒロインの内藤洋子が歌った劇中歌のタイトル。ながやす先生がこの映画にほれ込み、マンガ化した作品を読んだ梶原一騎氏がほれ込み、『愛と誠』の作画をながやす先生に依頼した、というエピソードがある。

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